神奈川・茅ヶ崎の児童養護施設=癒しのための巣づくり

20080501-塩辛と白めし

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2008.05.01

 

「帰ってきて、とりあえずご飯を炊いて、塩辛で夕飯を済ませちゃいました。」

茅ヶ崎ファームの長屋「ラーラ」では、3月末、温泉に行ってきました。上の言葉はその報告で、帰ってきた日の夕飯のことを言っています。こんなことは恐らくよその養護施設ではあり得ない光景でしょう。

養護施設では1ヶ月先の献立までキッチリ決まっているのが普通。ましてや子どもたちを旅行に連れて行くとなれば、帰園予定は何時、夕食は何人分で、誰がどうどう準備する、さらに風呂は、消灯時間は・・・。そもそも、夕飯が塩辛と白メシだなんて、ハナからそんな献立は存在しません。「栄養価」の点でそんな発想はないからです。

このお話は、「ところが」ということなんです

茅ヶ崎ファームには「1軒子ども6人の家庭舎」が10軒あり、「ラーラ」とは、そのうち「ラグエルの家」、「ラファエルの家」の2軒を「2軒長屋」として呼んでいるものです。それぞれの長屋には独立した営みがあるので、旅行も別個となるわけです。

2軒のメンバーは幼児から高校生まで子ども10人、これに大人4人。一年前から、雑誌やインターネットで下調べしながら、お金を少しずつ貯めて行ってきたんです。

「お金を貯めて」というのは、「温泉に行くんだから」ということで、普段のお金の使い方を我慢することもあったということです。でも、計画から貯金まで、みんなで共有、協力してきたことだけに、日が近づくにつれ、子どもたちの期待と盛り上がり度がすごかったそうです。

「あと○回寝たらだよねッ!」

子ども10人とはいえ、幼児から高校生までの男女混合ですから、年齢差や体力差、加えてラーラには肢体不自由の子までいます。興味の対象や行動半径など、それなりに不協和音も生じたはずですが、「家族旅行だから」と、みんなが譲歩したり工夫したりしたことでしょう。

温泉とはいっても、場所は近場の伊豆高原だし、一泊二日だし、予算だってタカが知れてるし。大人の感覚では『まあ、そこそこの・・・』程度のことです。ところが、帰ってきた子どもたちの反応は予想をはるかに超えたものでした。

「旅館、スゴかったよ!」「料理がスゴいんだよ!」「オレ、風呂4回も入った!」「また泊まりたい!」と大好評、そうなれば大人の方も『行ってよかった・・・』と、連れて行った甲斐があろうというもの。

しかしこの話のポイントは、冒頭紹介した部分です。旅行の内容や土産話、施設の子どもの経験不足、新鮮な体験がもたらす効果などいろいろあるにせよ、それらはさておき、

「旅行から帰ってきてから」、
「それからご飯を炊いて」、
「しかもオカズがお土産の塩辛」
という点です。

これを聞いて、私はなんだかすごく楽しい気分になったのです。

『これぞ長屋ならではの暮らしだよなァー』

家庭舎養護開始から(プレハブ仮園舎を含め)早4年目。

普通の家の普通の暮らし。規則的でなく、計画的でなく、集団的でなく、画一的でない。プログラムでなく、イヴェントでなく、地味で淡々とした日々の繰り返しこそが暮らしであり、育ちである。行き届いた配慮や周到な準備が必ずしも要求されるものではなく、たとえノープラン、ノーアイディアであっても楽しめるんだという余裕や自由。暮らしとは、ざっくばらんでフレキシビリティーに富んだものだからです。

職員にもようやくその感覚、意識が浸透してきています。

塩辛と白メシ。

「家の暮らし」を実践する茅ヶ崎ファーム、長屋暮らしの一コマでした。

 

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